モーストリー・クラシック２０２０年１月号

モーストリー・クラシック２０２０年１月号の詳細

「ミサ・ソレムニス」と「第９」との連続性を指摘し、解釈と演奏の変遷を提示する。代表曲の提示も極めて正統的な解釈だ。本誌では「第９」の第４楽章の評判があまり芳しくなかったと述べているが、ベートーベンの二つの伝記（諸井三郎新潮文庫版と長谷川千秋岩波新書版）を読むと、第９の初演が終わった時、聴衆は感動し、大きな拍手をベートーベンに贈り、耳の聴こえないベートーベンを弟子が振り向かせて、聴衆の感動の様子をベートーベンに知らせたという趣旨の内容が記載されている。こればいかなる根拠（事実）に基づくものなのか？ロマン・ローランの伝記によるものなのか？それとも何かの資料や出典に基づくものなのか？よくわからないが、聴衆が合唱に不満だったというのは、第９全体を否定することになるのではないか？聴衆は第９の素晴らしさを理解しなかったというのだろうか？それはともかく、後期ベートーベンのピアノソナタの代表曲の例示が今回は付け足し的な記述で少ない。第29番はグルダ。第30番はアシュケナージ。第31番のゼルキンのソニー旧録音盤。第32番はグルダの最後の録音をあげておきたい。ピアノソナタの場合はピアニストのそれぞれのアプローチがあり、ベートーベンという高峰をそれぞれの道から登攀している。したがって、決定盤はない。第９の場合は、フルトヴェングラーとワルターの演奏が最高峰に位置する。それにベームとカラヤン、バーンスタインが続き、フリッツ・ライナーやノイマン、ショルティも名盤を遺した。ベーレンライター版の楽譜を使用した古典的・古楽的な小編成の快速盤には感動的な名演は皆無だ。せいぜい、ラトルとブロムシュテットがそこそこ健闘しているくらいだ。結局、新奇さがあるのみだ。日本人の演奏としては岩城宏之NHK交響楽団、朝比奈隆大阪フィル1991年盤、小澤征爾サイトウキネン盤か。インバル盤も良い。色々な演奏を聴き比べるのがクラシック音楽の楽しみ方であろう。評論は吉田秀和、宇野功芳が参考になる。お勧めの一冊だ。